終わらない観覧車はなく

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 楽しい時間と言うのは早く、何時だってあっという間に終わってしまう。夕日を見ながらゆっくりと登る観覧車からの景色を二人して眺めていた。互いに今日の楽しかった出来事を思い出しながら、美月が口を開いた。 「今日はありがとう。楽しいデートだったよ、実はね聞いて欲しい事が有るんだ」  今日のこれはデートだったのかと今更になって清士郎は気が付いた。口を結んだまま何処か困ったような表情から彼女がきっと言いづらい事を話すのだと思った。内心、あの教師の事かも知れないと思うと、気が気でなかった。  長い沈黙。長ければ長い程重要な事なのだと理解してしまう。 「そう言えば、何であのアンパンのやつなんだ?他にもいっぱい絵本は有ったのに」  沈黙に耐えられなかった訳でも美月の質問を遮る為でも無く、ただ純粋に美月との時間が勿体ないと感じそう口から零れたのだった。それを聞いた美月は少し考えるとまぁ良いかという表情で再び口を開いた。 「そうだね、始めは武器を持たないヒーローって言う所に格好よさを感じたんだけどね」  少しずつ話し出した。好きな事だけに少しずつ言葉数は増え徐々に観覧車に乗る前の美月に戻って行く。楽しい時間はまだ終わりでは無い。いや清士郎自身が終わらせたくなかったのかも知れない。 「大人になるとね、今度は頭を分け与えるでしょ?アレは大人が子どもにするように身を削って他者を救うとか育てるっていう意味のように感じて」  その饒舌の中に答えがある。清士郎は美月が自分と違う在り方である事を再確認するように感じた。希望や夢を求め続ける美月、それに対し現実と戦い続け何を信用したら良いかも解らない清士郎。  二人は同じような状況に居ながら全く違う方向を向いている事が、話せば話す程現実として清士郎に突き付けられているようだった。
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