灰色の夢

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 排ガスを巻き上げながら中型のバイクは美月の目の前で止まった。黒馬に乗った王子などでは無い事はすぐに解っており、ヘルメットの下に誰が居るのかも美月には理解していた。だからこそ踏みとどまったと言うべきである。 「ずいぶん探したが、退院して何処に行って居た?お前はそんな事をする為に家を出たのか?家内が心配してるんでな、今日は嫌でも家に来て貰うぞ」  ネイキッド型のバイクを降りた男はフルフェイスを取ると気怠そうに胸ポケットに差していた眼鏡をかけ直した。手すりに乗っていた美月の襟首を掴むと猫の如くそのまま釣り上げられ地面に無理矢理降ろされた。 「、、、、、、、、、先生。良いんですもう、疲れたんです。もう誰にも迷惑かけたくないんです」  もう何もいらない。ただ楽しかった時の時間だけを抱いて他人の目につかない所で、この世界から消えてしまえばきっと誰の迷惑も掛からないと、そう考えそう思い込みこの結末に手を伸ばそうとしていた。 「、、、、、、、アホかお前は。いいから黙って乗れ」 「、、、、、、、、だって、わた、、、、、、、」  強めの拳骨が飛んで来た。音が鳴る程のそれは暴力じゃないかと思い暗い気持ちなんて吹き飛びただ頭の痛さと、自分の決意をいとも簡単に砕かれると怒りさえ込み上げてきた。 「ウルセェ!餓鬼がナマ言ってんじゃねえ!!ぶん殴られる前に乗れ!!」
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