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背中に渋々乗った美月は教師の両肩に手を置く。胴回りにしがみ付きたい所だったが、以前それをやろうとしたと所、眼鏡の教師は風貌に似あわず真面目な顔をしてこう言って来た。
「そこは掴むんじゃない。そこに捕まっていいのは妻だけだ」
それ以降、肩に掴まるしかなく暫くはバイク特有の浮遊感と何度か戦う羽目となった。しかし、乗り慣れると案外肩でもどうという事は無い事が解り、何時しかバイクに乗る事に抵抗が無くなっていた。
「あぁ、用意しておいてくれ、じゃあな、、、、、、、、、乗ったか?もう行くぞ」
電話を終えると、美月がちゃんと乗り込んだ事を確認しエンジンを吹かすと夜の吊り橋を景色を見ながら見送った。夜風を受けながら街の明かりがイルミネーションの様に煌々と輝き、景色が後方に吸い込まれるのを見ていた。
ーーーーーーー規則正しいエンジン音と心地良い振動。
夜風の中、爽快感だけを残し先へ先へと進んでいく。まるで心地いいアトラクションにでも乗っているかの様な感覚の中、気が付けば住宅街のど真ん中にある教師の家の前に到着していた。
久しぶりに来たがいつ来ても汚いボロアパートだった。教師なので一般的な給料ならある筈であるが、理由が有ってずっと仮住まいのままらしい。この教師夫婦の家に厄介になっていた時期の事を思い出しながら一番奥の角部屋の扉が開かれた。
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