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悪態をつく清士郎ではあるが、実のところ本当は感謝してる。いや感謝してもしたりない気持ちで一杯であった。私には彼以外の見舞いは来なかった。勿論看護婦さん達や他の入院患者の人とは沢山喋ったが。
「ところで、アンパ。美月はどうするんだ?このまま来週に有ると冬休みに入って登校は新年に、、、、、」
そう言った瞬間しまったと思った。清士郎はその辺りに関しては割と気を使う方であったが、しかしお喋りが過ぎた所為か口が滑った。だが美月は気にした風もなく何も聞かなかった事にし、隣に置いていたお茶を飲んでいた。
二人には暗黙の了解があった。学校に行く行かないの話はしないと言うルールである。
「いや、何でも無い。冬休みって短いんだよな。稼ぎ時だってのに、店がもう少し近かったらな」
「バイト先この辺りなんでしょ。此処から歩いて行けるって言ってたわよね。退院するとき覗いて良い?邪魔しないから」
別に良いけど、と言うと時計を見た。まだ時間は有ったが相変わらず話す事が無かった。そんな時、美月はいつも寝床から違う絵本を取り出す。今日の絵本は寝ている間に月で釣りをするクマの子どもの話であった。
美月には夢が有るらしい。絵本作家になりたいそうだ。そして何よりも尊敬し愛読している絵本がアンパンのヒーローの絵本である。彼女のそれは確かに、好きと言うレベルを超えマニアともとれる量の人形が病室の物入れ棚に詰まっていた。
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