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「雛は?誰に買うの?」
「えっと……家族と自分へのご褒美と……友達と……」
「えー!?それだけ!?男には?」
愛子がせっかくのバレンタインデーなのにもったいないと言いたげに首を振る。
「ちょっと高いチョコレートをあげたら、豪華なお返しがもらえるよ。」
さすが愛子だ。そこまで考えているだなんて。本当は私も渡そうと思っている人がいる。でも、それは同期の愛子にも教えられない。
教えたら有り得ないって言われそうだし、雛ってドMなの?とか思われそうだし。
佐倉佑衣(サクラ ユイ)。今年30歳になる職場の上司だ。女みたいな名前だけど、正真正銘の男。
180センチ近い身長。細身で小顔の色白。そのへんの女の人より綺麗だけど、とにかく口が悪い。仕事はできるが、部下の失敗を大目に絶対に見ない。陰で鬼上司って呼ばれている。
特に私は目の敵にされているようで、提出した書類の一言一句をチェックされて
「なにこの表現。」
「ここの漢字間違っている。」
「てか、絶対に訂正されるんだから、もう少し早く書類を完成させられないわけ?」
と、文句のオンパレード。挙げ句の果てには
「本当に浅見って心配で見てられない。」
と、呆れられる始末。
そんな人をどうして好きになったのか……それは、新入社員の歓迎会まで遡る。
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