甘いキスをして

3/11
336人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「雛は?誰に買うの?」 「えっと……家族と自分へのご褒美と……友達と……」 「えー!?それだけ!?男には?」 愛子がせっかくのバレンタインデーなのにもったいないと言いたげに首を振る。 「ちょっと高いチョコレートをあげたら、豪華なお返しがもらえるよ。」 さすが愛子だ。そこまで考えているだなんて。本当は私も渡そうと思っている人がいる。でも、それは同期の愛子にも教えられない。 教えたら有り得ないって言われそうだし、雛ってドMなの?とか思われそうだし。 佐倉佑衣(サクラ ユイ)。今年30歳になる職場の上司だ。女みたいな名前だけど、正真正銘の男。 180センチ近い身長。細身で小顔の色白。そのへんの女の人より綺麗だけど、とにかく口が悪い。仕事はできるが、部下の失敗を大目に絶対に見ない。陰で鬼上司って呼ばれている。 特に私は目の敵にされているようで、提出した書類の一言一句をチェックされて 「なにこの表現。」 「ここの漢字間違っている。」 「てか、絶対に訂正されるんだから、もう少し早く書類を完成させられないわけ?」 と、文句のオンパレード。挙げ句の果てには 「本当に浅見って心配で見てられない。」 と、呆れられる始末。 そんな人をどうして好きになったのか……それは、新入社員の歓迎会まで遡る。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!