1章 銀の鍵

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3具現屋、メルラ 国立図書館を出ると夜霧が掛かっていた。 暗い路地に魔術師の作った灯りが浮かんで、幻想的な夜を演出している。 城下を照らす作業は魔術師の唯一の仕事といえる。 この職務につけた魔術師は一生安泰して暮らせるのがこの世界だった。その他では、魔術師狩りの対象となる。古来より、魔術師一族はその奇妙な力のせいで意味嫌われている。 アストはブレンディ連れられて路地を歩く。億劫な考えはとりあえず頭の横に置いてこれから向かう場所のことを考えていた。 「魔術道具を作っている仲間がこの先にいる。腕は確かだ。名前をメルラと言って魔術師の間では有名なんだ」 ブレンディが説明する。 「メルラは具現師と呼ばれている。大陸でも数少ない種族なんだ」 幾つかの曲がり角を折れて、ブレンディは古い小屋の前に足を止めた。 看板には「具現屋」とだけ掘られている。 ブレンディが戸を開くと、使い方の分からない道具が並んでいた。宝石(クリスタル)がついた装飾品は硝子箱(ガラスケース)に納まっている。奥の部屋から小柄な少女が出てきた。着物を纏っていた。青い帯締めを巻いている。年の頃、十代半に見える。東国の民族衣装で西国では珍しいものだった。 「ブレンディ。そちらは?」 小柄な少女が青い色をした瞳で訊ねた。 「ルメラ。紹介するよ。彼が庭師のアスト。彼女が国立図書館長の娘でティアラ。悪魔退治の話をしていたんだ。丁度、方法を探していたんでね。連れてきたんだ」  
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