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「十時間くらいです。でも目覚めてよかった。少しだけ心配していましたよ」
「そっか、生きててよかったよ」
「お腹すきませんか?」
ティアラが差し出してきた乾物を受け取って、アストはもごもごと口を動かした。
さすがに十時間ぶりの食事は満足だった。
水筒の水を煽って、アストは一息つく。
「初めてにしては良い経験をさせて貰ったよ」
「実践と言っても模擬的なところは否めません。本来であれば死んでいても仕方ない状況です」
「僕には魔術のセンスはないのかな?」
「魔術はセンスではなく技術です。ただ悪魔の住む国につくまで時間が無さすぎます」
「時間操作はできないしね」
「前途多難です」
「僕はこれから何をすればいい?」
「そうですね、目を瞑ったままである程度の魔術を操れるようにすることでしょうか」
ティアラが目を閉じて掌を開くと、水で作られた蝶が空を飛んでいった。
呪文は一切使っていない。
本来魔術師に呪文は要らない。
「僕にはまだ、技術が足りないよ」
同じことをアストはやって見せた。
脳裏に浮かべた炎の鼠は出てこない。
掌の上にも周辺にもなんの異変も起きなかった。
「もう一度、挑戦です」
ティアラがアストを励ました。
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