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「荒田さん、そこまた違うんスけど。」
10も歳下の現場責任者に指摘された彼、荒田という男は工場勤務の非正規労働者。
不惑を過ぎ、元々少ない給与は上がるどころか諸経費で引くに引かれ、体は老いて独身 貯金はすべて賭博事に消え失せた。
(くそ面白くもねぇ)
ディスカウントスーパーで買った豆だの干し肉だのといったつまみ、第三のビールなるものを引っ提げて、仕事帰りに工場と自宅の途中にある平田公園で憂さ晴らしをするのが彼の唯一無二の憩いの場であった。
仕事場の工場では年下相手に見下げられ、7畳半の安アパートに帰ったとしてもなんの楽しみもない。
異性との浮いた話は勿論、食事に誘えるような友達もおらず、連絡手段である携帯電話は目覚ましか、暇潰しにやる単調な携帯ゲームの用を為すばかりであった。
「良子 よしこおう来たか!よし肉をやろう。」
恋人? まさか! 今上記で言及した通りだ。 愛すべき異性にいきなり肉をやろうなど原始時代ではあるまいし。
男はいつからかこの公園に迷い混んできた白い野良犬に「良子」と名付けた。
彼は別に動物が好きというわけではなかったのだが、人間孤独もいよいよとなるとやもめ部屋を這うごきかむりでさえもいとおしくならざるを得ないこともあるのだ。
良子というのは男が幼少の幼稚園頃
比較的親しかった女性、女の子。
モテない男にとって異性との思い出はここまでさかのぼる。
それさえ彼女にとってこの男は特別でない、「行儀良くご挨拶すべき誰か」の一人であったに過ぎない。
「犬はいいなあ、動物はいいなあ、見た目や年収で人を見ない。良子、 良子や、 良子・・・」
そう酔いながら男は公園のベンチで眠りこけてしまった。
薄汚れた中年男性が寝ていても誰も心配はしない。
良子は残ったつまみの残飯整理をしていた。
男は夢を見た。
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