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――気付けば、侑希斗の目からは幾粒もの涙がこぼれていた。あのときの、発表会で歌った曲を美夢がうたってくれたおかげで、全てを思い出したから……。
「俺は…どうして……」
何よりも大切な思い出を忘れていたことにひどく後悔しながら、侑希斗は潤んだ目のまま、タイムカプセルの青い手紙を開いた。そこには、
『ぜったい5人でいっしょにまたうたをうたう!!』
汚い文字でそう書かれていた。
(あの頃は、皆が大事なもので固く繋がってた。それなのに今は、ガキの頃の純粋な夢を叶えることもできず、あまつさえ、俺は命を捨てようとまでしてた……)
侑希斗は、あの頃の純粋だった自分と、あまりにもかけ離れた今の自分に、様々な感情がこみ上げて、胸を締め付けた。
ふと……そのとき顔を上げると、司、夕凪、詩織の三人が地面に崩れ落ちて、自分と同じように泣いているのが目に飛び込んできた。
(ああ、そっか…。皆同じだったんだ……。ここにいる誰一人、あの頃の夢を叶えることができなかった。希望に満ちた子供の夢と、辛く…泣きたくなるような現実との狭間で、もがいていたんだ……)
そして四人は、再び美夢のいる大樹に集まった。あのときと同じ、真っ赤に腫らした目で――。
「ごめん……俺達、それぞれが辛い出来事で埋め尽くされていたこの五年間で、一番大切な宝物を失くしてた……」
全員が、頭を下げて謝った。手紙の願いを叶えられなかったこと、ひどい態度をとってしまったこと、そして何より…大切な思い出を、忘れてしまっていたことに……。
すると美夢は、全く怒る素振りも見せずに首を横に振って、微笑んでから言った。
「頭を上げて……皆。私は今こうして、また皆に会えただけで、幸せだから」
その言葉に、ありがとうを皆が言って、顔を上げた後、侑希斗は言葉を区切るようにしてこう言った。
「美夢……じゃあ、さっき言ってたお願いって言うのは、五年前美夢がタイムカプセルに書いた……五人でまた、歌を歌うこと……なんだな?」
すると、驚くことに美夢は首をゆっくり横に振った。
「えっ!?」
他の三人も驚いて声を上げる。
すると、小さく微笑みながら美夢は……四人の方を向いて一人一人にこう言った。
「私の願いは……侑希斗くん、司くん、夕凪ちゃん、詩織ちゃんの四人が、また歌をうたうこと……」
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