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「ど、どうして? 美夢は?」
詩織が慌てて問う。
「…………」
「美夢……?」
黙って俯く美夢に、声を掛ける侑希斗。
すると美夢は、顔を下に向けたまま…小さく口を開いてこう言った。
「…侑希斗くん、私と……手を繋いでくれる?」
「えっ? どうして…?」
訳が分からず戸惑う侑希斗。
「お願い……」
美夢の表情は真剣だった。それを見て、侑希斗も頷く。
「…わかった」
恐る恐る右手を近づけ、妙な緊張感の中、侑希斗の手が美夢の手に触れた瞬間、目の前であり得ないことが起きた。
「えっ…………」
侑希斗の差し出した右手は、美夢の右手に触れることなく、すり抜けたのだ――。
何度手を握ろうとしてもつかむことはできない。
美夢は、手を戻してひどく俯くと、言葉を搾り出すようにしてこう言った。
「……私ね…実は……」
必死に言葉を紡ぎながら、顔を皆に見えるように向けた。
「…半年前に…………死んじゃっ……たんだ…」
そう言った少女は、大粒の涙をこぼしながら…今まで見せたことのない、この世のものとは思えないくらいの眩しい笑顔を見せた。
「…………」
誰一人、言葉が出なかった――。美夢が、何を言っているのかわからなかった――。でも、涙が溢れて止まらなかった……。そして、そのまま少女は語る。
「だからっ…私のことは、皆以外には見えない。声も……届かない。私はね……死んだはずの私が、今ここで皆にもう一度会えたのは、昔叶えようとした夢を、皆が諦めちゃったからだと思うんだ。…死んだ私の瞳に、一番最初に映ったのが……自分の命を捨てようとしていた侑希斗くん。…あの屋上だった。必死に止めようとしたけど、そのときは侑希斗くんにも私の姿が見えていなくて、どうすることもできなかった。だから私は…歌をうたってみた。私に皆との出会いをくれた歌を……。そしたら、奇跡が起きた。侑希斗くんに、歌が届いたの。私のことも見えるようになった…。その後、四人をここに集めた。……私は、五年の間にできた皆の闇を晴らすために、そして…また楽しくあの頃みたいに歌うことができるように、ここにきた。でも、私にはもう……皆を見ていることしか、お願いすることしかできない。だから…お願い……皆、私の分まで……夢を…叶えて」
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