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彼方は戯が自分の事など眼中にないことをよく知っていた。
自分の存在など、些末なものだとこの男が思っていることも理解している。
けれど、友人のために何かしてやらねばと思った。
辺りの匂いが一瞬変わる。
土が濡れる様な匂い。
雨が降る前兆の匂いだ。
すると、しとしとと雨が降り始める。
「まるで、あなた様のお名前のようですね?」
降り続く雨を見ながら彼方が言う。
彼は雨の神に連なるものなのだ。
「今は、お前にも、由高にも言えないことが多いが、儀式の時、必ず、由高にすべてを打ち明けよう。」
「信じてもよろしいのでしょうか?」
「……由高は必ず我が幸せにする。我が名に誓おう。」
それから暫く、二人は雨が降り続く庭を見ていた。
水たまりに雨が跳ねる。
それを目を細める様にして見る戯の瞳は普段と瞳孔の形が違う。
それを気にした風でも無く、彼方はただ、振り続ける雨を強い視線のまま眺めていた。
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