本編

11/20
前へ
/34ページ
次へ
『お嫁入り』の前日、母は泣きながら、俺の好物ばかりの夕食を食べさせてくれた。 皆が寝静まった後、父が静かに部屋で泣いていたことも知っている。 だけど、俺は泣くこともできずただ月を見ていた。 * * * 外は、小雨が降っている。 『お嫁入り』は毎回こんな天気になると、彼方の父親が言っていた。 嫁入り衣装といことで白無垢に角隠しみたいないかにもな恰好をさせられたら、恥ずかしさで憤死できると思ったが、神社の巫女さんの衣装の色身を抑えたような着物で少し安心した。 けれど、白い着物の上着はそれでも嫁入りを連想させて、内心がぐちゃぐちゃになる。 それを、彼方とおじさんに着せてもらう。 荷物は旅行鞄を一つ、最低限必要なものだけが入っている。携帯はどうせ使えないだろうから置いてきた。 山の麓からお社まで徒歩で歩いていきお社で儀式をするそうだ。 お社まではおじさんを含めて、4人の大人が一緒についてきてくれるらしい。彼方が苦々しそうに、「逃走防止のための見張り役だ……。」と呟いていた。 彼方と別れを惜しむ。彼方は思いつめたような顔で「大丈夫だから。」と言ったが、俺には意味が分からなかった。真意を正そうとしたが、彼方は口を開こうとして、おじさんに止められていた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

435人が本棚に入れています
本棚に追加