本編

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山道、前に二人、彼方の父親ともう一人彼方の親戚のおじさんが平安時代のような着物に、顔を布で隠し、烏帽子をかぶっている。布には顔のようなものが書かれているが、鼻は妙にリアルなのに目は一つだったり、口は三角だったり、不思議なものが書かれていた。 間に俺が進み後ろから、大きな傘を俺にさしかけてくれている人と、もう一人、荷物を持ってきている人がいる。後ろの二人は、着ている物は同じだが、顔を隠している布には「影」と書いてあった。 全員一様に無言だ。 こういうことを観察できるというのもずいぶん俺も冷静なのかなと思うが、たぶん違う。感情というものがごっそり抜けおちて、モノクロの世界にいるようだ。あきらめの境地というのはこういう事を言うのだろうか? もう、それすら俺には分からない。 しばらく歩くと、お社についた。社殿の方に向かって進むとそこにあり得ない人物が座っていた。 驚いて、足をとめる俺にかまわず後ろの二人が荷物を社殿に運び入れる。 おじさんが振り向き俺の近くまで来て小声で「私たちがいけるのはここまでた。済まない。」といってそのまま社から出ていく。 俺と目があったままのその人物は片足を反対側の膝に乗せて、くつろいだ様子で座っていたが、スッと立ち上がりこちらへ向かってくる。 「何で、戯さんがここに……。」 状況が全く飲み込めず目の前にいる相手の名前を呼ぶ。そもそも本当に目の前の人は戯さんだろうか? いつもの笑みは全くなく無表情で、目が金色に爛々と光っている。
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