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「ああ、結婚と思ってもらって我は構わぬぞ。こちらの益も勿論ある。我の一族は同族同士だと極端に子ができにくい。しかし、人界の者を介すると出生率が上がる。我が母もその昔、こちらの世界より『嫁入り』してきた人間だ。」
やはり結婚なのか。それよりも、いままで考えたこともなかった子供という言葉に驚いてしまう。
「あの、俺、見ての通り男なんですが。」
俺では絶対に無理だ。時雨様の望むものを差し上げることができない。
目に涙が溜まりそうになり、隠すように下を向く。両親と別れる時ですら涙なんて出なかったのに……。
「性別は別に関係ない。嫁が男であろうと我が一族の子を孕むことができるようになっている。」
うつむいていた顔をばっと上げる。
時雨様が俺の目尻に手を伸ばし、指で涙をすくい上げる。
「好きだ。俺と結婚してほしい。」
諦めたつもりでいたけれども、ずっと聞きたかった好きだという言葉に嬉しさがあふれる。しかも、口調も戯さんとして一緒にいた時のもので……。
ずるい。それは、ずるいと思う。
感極まってしまい、ぼろぼろと涙がこぼれる。返事なんて決まっている。
「俺も、あなたのことがずっと好きでした。
不束者ですが、よろしくお願いします。」
返事を聞くや否や、時雨様はぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
俺はその胸の中で暫く泣きじゃくっていた。
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