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いつも食事を取っている茶の間にはおらず、家をキョロキョロと見回すと、縁側に彼はいた。
時雨様の隣に座りお茶を差し出す。
基本的に時雨様は表情が殆ど変わる事は無いし、あまりお喋りな方でも無い。
二人で無言のまま、庭を眺める。
時雨様を見ようと視線をそちらに向けると目が合う。
先ほどから見られていたようだ。恥ずかしさから赤くなり下を向く。
すると、時雨様は俺の髪の毛を撫でる。
恐らく俺は時雨様に嫌われてはいないと思う。
では、何故。何故、俺達は“本当の”番になれていないんだろう。
「何故、時雨様は俺に触れてはくれないのでしょうか。」
声に出して言ってしまった後、心底後悔した。
俺はなんて事を言っているんだ。
羞恥と、村を救うためという人間側の都合で“嫁入り”を果たしてしまったのに、時雨様に何かを求めるという身勝手さに自己嫌悪に陥る。
何も言わない時雨様に、恐る恐る顔を上げて表情を窺う。
いつも以上に表情の抜け落ちたその顔が俺を見ている。
「我の母も“お嫁入り”で神域に連れてこられた人間だった。」
突然の話が代わり面食らうが黙って聞く事にして、時雨様を見る。
「我の父も当然蛙神だった。ただ、我の母はその醜い姿に嫌悪感しか抱け無かったようだ。
だがな、我の父はどうしても母が欲しかった。
そこで、無理矢理母を犯して我を作った。
母の心はその最中に徐々に壊れていったらしい。
生まれてきた我を見て発狂したと聞いている。」
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