本編

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俺も兄も男だ。嫁入りというのには違和感がある。 けれど、お社様への嫁入りとはいえ、性別は関係ないらしい、古い文献には男が嫁入りした記述も残っている。死ぬわけではないがまあ、体の良い生贄だ。 そこまで言って後、父はこぶしで大きくテーブルをたたいた。 普段そんな事をする人ではないので驚いた。 あまりにも非現実的な話なのに、父のその憔悴しきった様子だけがやけに現実的に見える。 由高も、駿も分かっていると思うが、十六夜家で村に残っているのはお前たち二人だけだ。 父のこんな、悔しいというのを前面に出した表情も、こんな現実離れした話も初めてだ。そんな、非現実的な話、無視してしまえばいいのではないか、それこそ村八分のような扱いを受ければ家族皆で出ていけばいい。俺はそう思ったし、そう家族にもそう伝えた。 「俺も、そう思った。年明けには沙良と入籍だぞ。何を訳の分からないことを言っている。そう突っぱねたかった。……お前も、お社を見に行け。そうすれば分かる。」 兄は、険しい顔でそういった。 俺は皆で俺をからかっているのではないか、そう思いたかった。 あまりにも信じられず、すぐにでもお社を見に行きたいと思ったが、両親が危険だと強硬に反対するのであきらめた。 もし、いま父のした話が本当であるのならば、俺か兄がお社様のところに嫁入りしなければならない。 いや違う、実際選択肢は一つしかない、沙良さんのいる兄と、特定の相手のいない俺、どちらがいいかなんて火を見るより明らかだ。     
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