本編

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◆ ◆ ◆ 「『お嫁様』は由高に決まったそうですよ。」 彼方は同居人に話しかける。 一方、戯と呼ばれている同居人は驚く風もなく、また喜ぶ風もなく淡々と「ああ。」と答える。 その返答に彼方は苛立ちを抑えきれない。 「あなたは結局のところ、由高をどうしたいんですか!?」 彼方が毎日由高を家に連れてきていたのは、勿論由高が喜ぶからというのもあるのだが、それだけではない。それなのにもかかわらず戯は何もしない。ただ、由高を見ているだけだ。 『お嫁様』は生贄の別称だ。それに由高が選ばれたという件は村の有力者や、関係者にはすでに知れ渡っている。彼方の家は代々、お社の宮司をしているため、由高の件も彼方に伝えられた。友人を気遣ってやれ、そう父親には言われたが、まあ体のいい監視役と言うところだろう。 『お嫁様』に決まってからの由高は気丈にふるまってはいたが、友人である彼方の目から見れば明らかに憔悴しきっているようだった。そんな状況であるからこそ、彼方は目の前の人物が何事もないように過ごしていることに、苛立っていた。
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