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お前の話を聞く気はないとばかりに、縁側に座ったまま、月を見上げる様にしている戯に彼方はこぶしを握り締める。
「せめて、由高に説明してあげることは出来ないのでしょうか?」
「無理だな。」
お社様の代替わりには、色々な規則がありまた、制約もあることは彼方も分かっている。それでも、友人の不安を少しでも取り除くため、抜け道がないものかと考えてしまうのはいたしかたがないものであろう。
「僕は、あなたの正体を知っています。能力も過去のお社様から、大体の見当は付いています。そして、戯という偽名…。例えば、ここで僕があなたの本当のお名前をお呼びするといった場合どうなりますか?」
戯は“日照雨”と字を当て換える事ができる。
戯は視線を彼方の方へ向けるが、表情はやはり変わらない。
「呪われる覚悟がある、ということか?」
神にも等しいとされる力を持つ、戯の名を本人の許可なく呼ぶということにはリスクがある、そんなこと当然彼方は分かっていた。しかし、由高一人を犠牲にして、村を助けるということに対して、彼方は反対する気持ちしかない。例え、由高が戯に対して淡い恋のような感情を持っていたとしてもだ。誰かを犠牲にして助かるぐらいなら、村ごと滅んでしまえばいいとさえ思っている。
「呼べば、この世界にとどまれず、あちらにお帰りになるはずです。」
しばらくの間、彼方は戯から視線を離さなかった。
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