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第46話「始まる前から大打撃」
星骸の塔最上階にある屋上広場。
普段は閉じられているそこは、一部の儀礼、祭典、そして今回の様な魔術師同士の決闘に用いられる場所だ。
天を衝くほど巨大な塔の最上階だけあって、その高度は並ではなく本来なら吹き荒ぶ風で目も開けられないのだが、風を軽減する魔術が施されている為か、髪を揺らす程度の心地よい風が吹いている。
波を思わせる意匠の壁に覆われたそこからは、真下こそ見えないものの遠くの山脈まで見渡す事が出来る。
遥か彼方には国境を超えた隣国の海も臨める。
これが選抜戦の会場でさえなければ、シートを持っきてピクニックしたくなる程の絶景だ。
「大丈夫か」
無言の私が心配になったのか、隣のルーちゃんが話しかける。
「ええ、大丈夫です。高い所、結構好きなので」
気を遣わせたくなくてそんな意味不明な事を口走ると彼は鋭い牙を見せて笑った。
「景色見る余裕あるなら大丈夫だ。任せろ、負けやしねえよ」
「はい!」
気合いを入れて頷き、歩を進める。
石畳の敷かれた道。
その先には円形の闘技場に似た舞台が築かれていた。
闘技場の四方には観覧席が設けられ、代表戦に興味を持つ魔術師たちが押しかけている。
「!」
普段目にする事もない人数の魔術師たち。
僅かに肩に力が入る。
そこにいる全員の目が現れた私たちに向けられた。
人の視線が怖い。
好奇の目が、蔑む眼差しが「何故お前が」と非難している様で足が竦む。
その時だ。
止まりかけた私の背を、何かが押した。
びっくりして見上げると、彼の尻尾がぐいーっと背中を押していた。
「止まんな」
「で、でも……」
怖い。
あの視線に晒されるのは。
「ったく、さっきまでは気合い十分だったってのに、連中がいると途端に弱くなんな、てめえは」
「す、すみません……」
「一々謝んな、うぜえ」
「はい……」
ごめんなさい。と心の中で呟くと、彼は軽く溜息をついた。
「いいかソラ、外野は無視しろ。連中全部、カボチャだと思え」
はい!?
さくっと言われて私は目を見開く。
「カボチャ!?あれがですか!?あんな悪意に満ちた眼差しのカボチャいます!?ジャック・オー・ランタンだって、もうちょっと愛嬌ある顔してると思うんですが?!」
反論すると彼は不機嫌そうに顔を顰めた。
「ものの例えだ、一々口答えすんじゃねえ!つかそもそもジャック・オー・ランタンに目はねえ!奴らのアレは穴だろ、穴!!」
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