第5-2話「いざ、受付へ!」

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第5-2話「いざ、受付へ!」

首都リアドのべネトロッサ本邸から馬車で10分の距離に、その建物は存在した。 地上50階、地下5階の多層構造をした巨大建造物。 石造りの外観は古の塔型ダンジョンそのものだが、その中は最新鋭の設備を有した生粋の魔術師たちが集う技術の殿堂だ。 青い空の下にグレイの石壁が何とも重々しい。 王城とは異なる威圧的な佇まいの高い塔は、正に星の骸の名を冠するに相応しい重厚感を備えており、新参の魔術師の来訪を拒むかのように聳えていた。 塔の最上階には魔術師協会の協会旗の他に、星骸の塔の総本山である事を示す大きな旗がたなびいている。 馬車を本部前に横付けにするのは気が引けたので、少し離れた場所に停めて歩く事にした。 春の訪れを告げたばかりの風はまだ少し肌寒く、無意識に外套の襟元を軽く寄せる。 「でけえな」 私の従霊ーールーちゃんは塔を見上げて眩しそうに目を細めた。 「そりゃそうですよ。何と言っても世界最古の魔術組織、星骸(せいがい)の塔の本部なんですから」 少しだけ我が事の様に自慢すると彼は蔑む様にフンと鼻を鳴らした。 「人間の(さが)ってやつだな。無駄に背の高い建モンばっか建てたがりやがる」 「うーん……確かに高い建物が好き。という事については一部権力者の質的(さがてき)なものとして広く一般に認知されている事実ではありますが……そもそも巨大建造物の起りは単なる趣味嗜好などではなく、権力の大きさや集団内で地位、組織の団結といったものの象徴として作られた事に端を発するので、そこに関して、私たち星骸の塔の人間は当てはまりませんね」 「どこがだ、こんな馬鹿でっかいもん建てやがって。どうせ一番偉いヤツは最上階でふんぞり返ってんだろうが」 顰めっ面。 うーん…… ルーちゃん、高い建物とか権力者に嫌な思い出でもあるんでしょうか。 私は内心首を傾げながらも続けた。 「最上階は儀礼祭典に使われる大広間になっていて、その下は議事堂になっています。塔の権力者と言えば導師と呼ばれる魔術師たちですが、彼等の研究室なんかは結構バラバラで、色んな階に点在してますよ?最高齢のアルマー導師に至っては「足腰が痛くて通勤がめんどくさい」と言う理由で、1階の正面を真っ直ぐ行った受付手前の一番近い場所に研究室をお持ちですし」 「……それ、導師としてどうなんだ?」 「ですよね。私も初め知らなくて。受付と勘違いしてお邪魔した事があります」 その時は、受付ってお姉さんじゃなくてお爺ちゃんなんだー、あ、お茶とお菓子まで出してくれるなんて親切だなー。と、導師執務室でのんびり過ごし、迎えに来たお兄様にこっぴどく叱られた記憶がある。 私の心を読んだのか、ルーちゃんは呆れ返った様子で深い溜息をついた。 「で、うっかり小娘。とりあえず受付に行く、でいいんだな?」 「うっかり小娘って呼び方は止めて下さい。せめてここではマスターと!」 従霊にうっかり小娘なんて呼ばれてると分かったら、他の人に何て思われるか。それでなくとも、落ちこぼれって呼ばれてるのに。 「うるせえ。てめえがんな要求出来る立場か?」 「分かってますよぅ……」 でも、少しくらい見栄を張りたい。 ちょこっとでいいから。 「……はー……」 長い溜息のルーちゃん。 分かってます。 高望みしてるのは。 厚かましいのは重々承知です。 背中を丸めて俯くと、不意にポンと頭に何かが乗った。 「?」 顔を上げるとルーちゃんの尻尾の先が頭に乗っかっている。 あの、私の頭 尻尾置きじゃないんですが…… 「卑屈すぎんだよ、てめえは。この俺と契約したんだ。胸を張ってふんぞり返ってろ」 「と、言われても……私、ルーちゃんが凄い従霊だとはどうしても……」 思えないーーそう言おうとした矢先。 「あ?」 鋭い視線が叩き付けられた。 「うわぁ、ルーちゃんてすごいんですねー、あー、私ってば、すごい魔術師ですー!」 「心が篭ってねえ」 「だ、だって!」 「やかましい。とにかく、ここでくっちゃべっててもラチがあかねえ。おら、行くぞ。来い、ソラ」 ぐいーっと尻尾で首を引き摺られる。 苦しい!! パシパシと軽くタップするものの、ルーちゃんは無視してズンズン歩いて行く。 「……!!……!!!」 結局、私は一言も話せないまま、彼に引き摺られる様にして受付へと向かったのだった。
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