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余りの事に打ちひしがれていると、ルーちゃんが面倒くさそうに欠伸をしながら告げた。
「いいじゃねえか。そっちがその気ならこっちも気兼ねなく捻じ切りにいけんだろ」
「だから捻じ切っちゃ駄目なんですってばぁ!!」
自分が怪我をするのも嫌だけど、他人に怪我をさせたり、ルーちゃんが怪我をするのも嫌だ。
何とか円満に解決する方法はないものか。
「ソラ、あんま欲張んな」
「ルーちゃん……」
「ロートレックは正しい。戦うからには犠牲を払う。こっちも、向こうもな。それを了承して向こうは来んだろ。なら、全力で行かねえとそれは侮辱に当たる。そしたらお前、更に嫌われんぞ」
「………」
それはそうかもしれない。ただでさえ私は式典で彼女の経歴に傷をつけている。私の本意でないにせよ、それを名門に生まれた人間として許せないと思うのは仕方ない。
「ルーちゃん……」
まだ頭の整理がつかないままに困って見上げると、彼は赤い目を細めた。
「俺は俺のやるべき事をやる。お前を守り、敵を粉砕する。それだけだ。向こうもその気なら遠慮はしねえ。ぶっちゃけ俺にとっちゃお前以外はどうでもいいしな。お前の身の安全が最優先だ」
彼の言葉が耳に痛い。
「なあソラ、俺は従霊だ。お前を守るのにもお前の力が必要になる。協力しねえなら、俺には幾らも抗う術はない。従霊の出力ってのは主の気持ちに左右される。それは分かってんだろ。被害を最小限にしたいなら腹括れ。嫌でもな」
真っ直ぐに告げられ、私は少し項垂れた。
望む形にはならないかもしれない。でも彼は私の希望を出来る限り叶えようとしてくれている。
その信頼を裏切るのだけは、嫌だった。
自分の理想もあるけれど、手加減して勝てる相手じゃーーいや、全力を出しても敵わない相手だと分かっている。それなら彼の言う通り、被害を最小限に抑える努力をしなくては。
「腹は決まったか?」
「はい」
自信はないがやるだけやろう。
心に決めるとルーちゃんが笑った。
「よし」
いい子だ、と頭をワシワシ撫でられた。
ちょっと痛い。首が折れそうです。
「決まりですね。先ずは先手必勝です。向こうが行動する前に即殲滅です!」
「はい!!……いや、殲滅はしませんよ!!?」
そんなやり取りをしながら少し早いお昼ご飯を食べた。
戦いの前の束の間の時間。
私は特に緊張するでもなく騒がしくも穏やかに過ごしていた。
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