第49話「からくり」

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魔術師同士の決闘の場合、他者の力を借りる事は本来は御法度とされているが、付与魔術師に依頼して“自ら発動させた魔術”を自分の持ち物に付与する事は認められている。 それを、彼女は持ち込んだ。 付与魔術には効果が永続するものと、発動時間が限られるものがあり、彼女の持つブローチは恐らく後者だと推測される。 実際、戦闘開始から今迄に展開された秒数を思い返してみたが、どれも同程度の時間で解除された。 触媒としてルビーは良質な物質だ。 大地の源素を多く含めば含む程、その触媒としての効果も高くなる。反面、値段もかなりのものだがローザンヌ家はジューネベルクの首都貴族。工面するのはそう難しくない。 しかし、自然界の鉱物が彼女の放つ魔術を永続的に宿す事は出来ない。 本来の在り方と違うものを宿し続ければ直ぐに壊れてしまう。 だからこその秒数と、回数制限だとしたら。 宝石が濁ったのは中に溜め込んだ源素を魔術と一緒に吐き出したからだ。完全に濁りきれば、最早それはその辺にある石ころと変わらない。 私の見た限り、使用制限はもって後1、2回。 そこを乗り切れば…… 「勝てる……っ!」 5、6、7…… そろそろ障壁が解除されるはず。 「ルーちゃん!“ゴー”です!!」 「分かってる!」 合図と共に彼が拳を振り上げる。 障壁はーー消えた。 「そ、ら、よっと!!」 振りかぶったそれを遠慮なく叩きつけた。 金属がぶつかる様な甲高い音をたてて、彼の拳が結界に衝撃を与えた。 「く、うっ!?」 拳と結界の衝突で生まれた衝撃が、彼女を襲う。 ルーちゃんのパワーなら空気砲くらいのダメージはあるだろう。 華奢な魔術師には少しキツイかもしれない。 「こ、の……雑霊がっ!!」 激昂した彼女は結界からルーちゃんを引きはがす為に“テイズ・ウォール”を展開した。 ルビーの色が更にくすむ。もう殆ど透明度はない。 あと1回! 電磁波の波が爆ぜるとルーちゃんは追撃を避けて後退する。 ヒット&アウェイ。 ギミックさえ分かってしまえば、どうという事はありません。 後は障壁解除のタイミングでラッシュを掛ければ、終わる。 そう思って僅かに気が緩んだのを、彼女は見過ごさなかった。
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