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空気を震わせる振動と音。
耳を塞いでいると言うのに皮膚を震わせ、血を震わせる程の大音量。
立っているだけでも、膝が崩れないようにするので精一杯だ。
身体だけではない。
魂すらも打ち砕かれそうな恐怖を覚える。
雷鳴のような、獣の咆哮のような。
でもそのどちらとも違う。
勿論、人の声等では断じてない。
竜種が持つとされる独特の破壊音声。
それらは“訃音”と呼ばれ、只の音ではなく魔術の一種として数えられる。
魔力抵抗に失敗すれば受けた者の気力をへし折り、相手が魔術師であればその術すらも霧散させる竜種の脅威の一つ。
彼らが最強の生物と謳われる由縁でもある。
「……っ!」
ルーちゃんの背後にいた為、その効果は半減以下のはずなのだが、魔力が減った状態の私には少しキツイ。
グラつく、と彼が言った通り……足が震えた。
私だけじゃない。
直接の対称であるフェリシエル嬢も目を恐怖に見開き、硬直していた。その場に、結界の中で尻餅をつくように崩れ落ちる。
観客席側でも四方のうちフェリシエル嬢側の席では対魔術障壁が常時展開しているにも関わらず、抵抗に失敗した一般の魔術師たちが崩れ落ちていた。
中には意識をくじかれ昏倒したのか、慌てた救護班に運び出される者も数人いた。
「……すごい……」
これが竜種……
ルーちゃんの、本来の力なの?
現役の、それも優秀な魔術師たちを相手にその精神を打ち砕くほどの力量を見せた。
咆哮が止んでもまだ足が震える。
あれが自分に向けられたら、私程度の魔術師ならば完全に心が折れて恐慌状態になるだろう。
展開された魔術障壁は、ものの見事に粉砕された。
「……はぁ」
少し疲れた様にルーちゃんが息を吐く。
そのまま目の前に晒されたフェリシエル嬢の結界へと近付く。
「ひっ」
彼女が小さく悲鳴をあげた。
恐慌状態にならなかったのは、単に彼女の魔力抵抗が高かったからだろう。
でも、もう立ち上がるのは傍目に見ても無理そうだ。私の魔力も、今の咆哮に大半を使われ空っぽに近い。
「……勝負あったな、小娘」
ルーちゃんが片手を上げる。
結界へ直接打撃を叩き込むために。
「……こ、来ないでっ!!」
怯えた彼女は震える指先を彼に向ける。
心はくじかれたが、プライドだけで戦闘の意思を見せる。
無言のまま近付くルーちゃん。
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