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「く、来るな!下がりなさいっ!!『飛来せよ星屑』……!“シュート”!!」
エメラルドの光が真っ直ぐに飛ぶが、彼はそれを首を傾げて避けて見せた。
初めの頃の精細さに欠けるそれでは、彼を捉える事は不可能だ。
「無駄だ」
死刑宣告の様な無慈悲な声音が響く。
こちらからは彼の表情は窺い知ることは出来ないが、フェリシエル嬢の顔面が蒼白なのを見ると、相当怖い顔をしてるに違いない。
「この俺をここまで手こずらせたんだ。人間にしちゃ上出来だ。褒めてやる。……そうだな、ただ潰すにゃ少々惜しい。情けを掛けてやる。そこから出ろ。そして、あいつに詫びろ」
あいつ、と彼は親指でクイッと私の方を示した。
「だ、誰が……!!!」
必死に抵抗する彼女だが、ルーちゃんの声は冷たい。
「そうか」
あっさり呟くと、その瞬間ーー
ドゴォンッ
「きゃあっ!?」
思い切り振りかぶられた拳が叩きつけられた。
フェリシエル嬢が悲鳴をあげる。
一撃が結界にダメージを与え、その耐久値を削り取る。
「なら仕方ねえ。泣き入れるまで、ぶん殴るだけだ。途中で結界もぶち壊れるだろうが知った事か。命乞いするなら、早めにするんだな」
そう言ってもう一撃。
ドォオンッと結界を震わせる重い打撃音がした。
「きゃぁあっ!?」
彼女が悲鳴をあげる。
結界が明滅した。
「ま、待て!」
それまで見ていた審判が静止した。
「結界残量が今ので50%を切った!中断だ!」
「……あ?知るかよ」
「!やめろっ!!」
更に一撃。
壁を抉る様な音がした。
いけない……!
もしかしてルーちゃん、ものすっごく怒ってる!?
「ルーちゃん……!」
慌てて静止しようとするが、それでも彼は攻撃を止めない。まるで狂戦士(バーサーカー)の様に追撃し、徹底的に結界を破壊し、相手を中から引きずり出そうとしている。
「ルーちゃん!いけません!やめて……やめなさいっ!!」
大きな声で彼の耳に届く様に叫ぶと、今迄こちらを見ていなかった赤い双眸が振り返った。
血の様にーー赤い。
いつものキラキラした眼差しではなく、何処かほの暗い、どろりとした色の瞳が私を写した。
その瞳に見据えられた瞬間、背筋が凍った。
……これ、ほんとに、ルーちゃん……?
「あんだよ、ソラ。止めんな」
不機嫌そうな低音で命令を拒否された。
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