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今迄ルーちゃんを怖いと思う事はあっても、潜在的に恐怖する事はなかった。
でも今は……今の彼は
すごく、怖い……
敵意は私に向いていないはずなのに、私まで壊そうとしているかの様に感じる。
こんな彼をーー私は知らない。
「ルー、ちゃん……」
喉が張り付いたように上手く声が出ない。
「なんだ」
一応私の声だけは聞く気はあるのか、鬱陶しげに返事をされる。
「も、もう、勝負はつきました……こ、これ以上の追撃は……」
必要ないと言おうとしたが、それよりも先に彼が口を開く。
「まだだ。まだ、小娘は生きてる」
「ルーちゃん……!」
「……言ったろ。泣き入れるまで、許しやしねえよ。死にたくなきゃ、一言詫び入れりゃいい。そうすりゃ俺も……ムカきはするが……一先ず溜飲は下げてやる」
そう言って再びフェリシエル嬢を見遣る。
「だ、誰が……!」
名門の矜持か。彼女はそれを拒否した。
それを見て彼が満足そうに嗤う。
「だ、そうだ。……続行だな」
血の色の瞳が、それはそれは楽しげに細められた。
ゆらりと彼が彼女に向い歩を進める。
結界を破壊して、引きずり出そうと。
でも何故か、私にはそれだけで済むとは思えなかった。
「駄目……駄目です!ルーちゃん!駄目!!」
駄目だと訴えても彼は聞かない。
従霊は本来、主の命令には絶対服従のはずなのに、私の印章には彼を制御する力がない。
拘束できない。
「ルーちゃん!!!」
懸命に声の限り叫んだが、私の言葉は無視されーー彼の驚異的な破壊力を有した拳が、再びフェリシエル嬢のいる太陽の陣の結界に振り下ろされた。
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