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第50話「竜殺し」
彼の拳が無慈悲に振り下ろされた。
結界に拳が届くーー正にその瞬間。
ぴたり、と彼がその動きを止めた。
「……ルーちゃん?」
やっぱり気が変わって聞いてくれたのか。
そう思いそちらを見たがーー何か、おかしい。
彼は赤い双眸を見開いたまま、驚愕の表情を浮かべていた。そして
「ぐっ……!?」
いきなりその場に膝をついた。
「ルーちゃん!!」
どうしたと言うのだろうか。
驚いて呼び掛けると、私は漸く異変に気付いた。
彼の身体が、何かに縛られていた。
白い光。
まるで蔦の様なそれらは次々と現れ、彼の身体を縛り付けた。
「ち、い……っ!」
最初は片膝をついて耐えていた彼だったが、やがて耐えきれずにその場に崩れ落ちる。
無数の発光する蔦の様な魔力の塊。
「ルーちゃん!」
何が起きているのか。
良く見るとリングの至る所に空いた穴からその光は伸びていた。
「はっ!」
その様を見て、フェリシエル嬢が笑った。
そして結界の中でゆっくりと立ち上がる。
「油断、しましたわね」
「フェリシエル嬢……?」
彼女はややふらつきつつも持ち直すと、地面に這いつくばった彼を睥睨した。
「竜種と聞いて一応策を弄じましたが……正解でしたわ」
ローブについた埃を払いながら嘲笑う。
地面に拘束された彼はもがいたが身体の自由が効かないのか立ち上がれない。
それどころか……その身体から蔦を通して魔力を吸い取られている。
「……“竜殺し”か……っ!」
忌々しげに牙を剥く。
竜殺し……?
困惑する私を見て、フェリシエル嬢はふんと鼻を鳴らして呆れた表情を見せた。
「竜種を使役するのに“竜殺し”を知らないだなんて、落ちこぼれにもほどがありますわ。いいでしょう。無知な貴女の為に、この私が教えて差し上げます」
勝ち誇った笑みで彼女は語り出す。
「“竜殺し”は古代語魔法の一つ。一種の呪いの様なものですわ」
「……呪い?」
「聖フエルザンヌが編み出した秘技。竜種を縛り、その力を奪い、無効化する呪い。通常は魔術詠唱を必要とするもので私には使う事は出来ません」
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