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しかしーーそこで、私は目を見開いて硬直した。
彼の姿がない。
先程まで地面に這うようにして苦しんでいたのに。
どこにもいない。
ーーもしかして、先に……?
消えてしまったのだろうか。
そう思うと悲しくて、切なくて、胸が引き裂かれる様で私は大粒の涙を零す。
「ルーちゃん……」
ごめんね。
私が……私が役立たずの、落ちこぼれだから。
だから、ルーちゃんまで、こんな目に。
申し訳なさと、もう彼と二度と逢えないという事実に嗚咽を零しそうになる。
がーー
「何、泣いてやがる……っ、この、馬鹿が……!」
「!!?」
思いのほか近くで、彼の声がした。
「ルーちゃん!?」
声がしたのは真上。
見上げると崩れ落ちた私を庇うように、私の上に覆い被さる彼がいた。
「ルーちゃん!」
「喚くな……っ」
そのまま私の身体全てを護るように包み込む。
激しい光と熱。でも熱いとは感じるものの私の身体は焼けてはいない。
しかし肉の焼けるような酷い臭気が鼻をつく。
視界の端に、血が蒸発し、赤黒い煙となって上がるのが見えた。
ルーちゃんだ。
これ、ルーちゃんが、焼けてる……
「だめ!ルーちゃん、駄目です!どいて下さい!!」
泣きながら彼の下から逃げようとする。
しかし、彼は私をがっしりと固定し逃がさなかった。
「馬鹿が……!出たら、死ぬぞ!!」
「でも!ルーちゃんが!ルーちゃんがぁっ!!!」
死んでしまう、と半狂乱で暴れる私を宥める様に、彼は静かに吠えた。
「やか、ましい……!この、程度で……焼ききれるほど……俺の鱗は、ヤワじゃねえっ!!」
ーー嘘だ。
だって、今迄の人生で嗅いだことないほど強烈な血の匂いがする。
だって、普段はどんなことがあっても動じないし、傷つかないのに、その顔を苦痛に歪める彼がいる。
「やだやだ!……やです!やですぅっ!!」
力では敵わない。
押し込められる様に捕まりながら、私は子供の様に泣きじゃくる。すると
「ソラ……!」
「!」
名前を呼ばれ、反射的に動きを止める。
彼は大丈夫だと、私の頬を軽く舐めた。
肌を焼く様な熱が消えて行く。
ルーちゃん……!!
こんな酷い目にあってるのに、それでも私を護ろうとしてくれている。
そんな彼を振り払う事などーー元より出来るはずもなかったのかもしれない。
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