5593人が本棚に入れています
本棚に追加
だがーーあたいは違った。
「~~っ!」
呑気に欠伸をした相手にブチ切れて、あろう事かその御方ーー自身の社が祀る神の系譜の若宮様に向かって思い切り拳を振り上げると思い切り振り下ろした。
バチィィンッ
分厚い鱗に拳が炸裂し、平手打ちの様な音がした。
めちゃくちゃ痛い。
こっちの拳が。
でも構わない。振り抜いた拳を更に強く握り締めるとその場で仁王立ち。そして
「ちょいとアンタ!何なんだい!?人が折角話掛けてるってぇのに黙りとは!ふざけんじゃないよっ!!」
礼儀も忘れて怒鳴りつけると若宮様は驚きに目を見開いた。
そりゃそうだ。
まさか昨夜娶った妻に朝っぱらからぶん殴られるだなんて思いもしなかったのだろう。目をパチパチさせて動揺している。
やらかした自覚はあるが、怒りがそれを上回った。
下手をしなくとも神に手をあげれば良くて死罪。悪くて一族郎党官位剥奪の上、島流し。加えて当の本人は無論、死罪である。
だが、構うもんか。
ものには限度ってもんがある。
「何様のつもりだい!?」
腹の底からそう叫ぶと、彼は動揺しつつも思いの外涼やかな声で答えた。
……神、だと思うのだが……
「~~~っ!!」
ああそうかい。上等だとも。
じゃあ神様。とりあえず、いっぺん死んどくれ!!
全力で拳を振り上げて、とりあえずもう一発殴った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「て事があってね?」
「……」
事も無げに語る彼女に私は開いた口が塞がらない。
どうしよう、殴ったとは聞いていたけれど、まさか2回もやるだなんて。
『………』
ルーちゃんですら絶句している。
恐るべし、ホナミさん。
「そ、それで……無事だったんですか?」
「ん?ああ、そうだね。無事だよ見ての通り。つーかその一件で何か余計に好かれちまったみたいでねぇ……何せ向こうは今迄好き勝手して生きて来た神様だろ?誰かに殴られた経験もなかったみたいで。薄ぼんやりした人だったから、あれこれ世話を焼いてるうちに、すっかり家に居着いちまってね」
「はあ」
神様を殴った彼女にも驚きだが、殴られてそのまま家に居着いてしまう旦那様も旦那様だ。
余程の衝撃だったのだろう。そしてそれがそのまま愛情に転化したのかも知れない。
私には理解出来ない世界だが。
「で、そのうちに子宝に恵まれて、あの子が産まれた。嬉しかったよ、とてもね」
懐かしむ様に目を細めて彼女は微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!