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そうして娘に責められつつも、日々を必死に生きて行こう。あの人の分まで大切に育てようと思っていた矢先の事だった。
大和で、高志の一族が反乱を起した。
国津神として一族、眷属に睨みを効かせていた夫が籍を空けた事で跡目争いが起き、加えて人の所為で偉大な国津神が鎮まったと、今迄比較的、人に対して寛容だった者たちにも人間に対する憎悪が芽生えたのだ。
蛇とは得てして嫉妬深く、執念深い。
一度恨めば末代まで祟ると言われている。
高志による、人狩りが始まった。
穂浪は何とか止めようと大家主に掛け合ったが、大家主は「放っておけ」と一言返したきり何の手も打ってはくれなかった。
そこで穂浪は悟った。
大家主も怒っているのだと。
無理もない。
夫は大家主の大事な嫡子であり、何れは国津神を纏める尊神になる筈だった。それが僅かな人を救う為だけに御座(みやくら)から退き、海底で眠りについたのだ。
誇り高い高志の眷属たちがそれを許すはずもない。寧ろ穂浪を八つ裂きにして殺さないだけ、まだ穏便だと思うべきだった。
娘がまだ幼かったから、若宮の血筋を護らせる為に生かされていたのだと穂浪はその時気が付いた。
眷属の中にも派閥が出来、若宮を救う為に枷となる穂浪親子を殺そうと考える者と、若宮の血を護る為に娘だけは生かそうとする者に別れて行った。
人を蔑み、高志は沢山の人を殺した。
男も女も、老いも若きも。目に止まる人々を食い物にし、太古の時代の如く血と恐怖を振り撒いた。
朝廷もこれには黙っておらず、高志との徹底抗戦を宣言。これにより、穂浪親子は更なる窮地に立たされる事になった。
救国の国津神の妻子はいつしか、まつろわぬ悪神たちの一族と断ぜられ、違うと叫べば「裏切り者よ」と高志からも命を狙われた。
いよいよ身の振り方を考えざるを得なくなった。
このまま神州にいては娘が危ない。
ならばどうするか。
必死になって思案していた所に、ふらりと1人の男が現れた。
懐かしい顔だった。
まだ自分が祭祀であった頃。
東方特有の付与魔術を学びたいと西方から訪れた奇妙な男だった。
東方呪術は一子相伝。もしくは一門のみに伝承されるものなので外国人が学ぶ事は出来ない。そう説明したのだが彼は諦めず、紫山の自分の社の傍に住み着いた。
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