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何日も押し問答が続き、やがて男は社の傍から居なくなった。しかし帰ったのかと安堵したのも束の間で、いつの間にやら里に降りた男は、村人たちの中に馴染み、畑仕事などをして暮らし始めた。
西方特有の鮮やかな容姿だけに大層目立つ筈なのだが、見に行くと銀の髪にほっかむりをして悠々と鍬を振るい、里の者たちと鍋を囲んで談笑していた。
余所者に厳しい東方では有り得ない事だけにド肝を抜かれたが、この男の奇妙な所はそれだけに留まらず、持ち前の気策さと話術で里長に里人としての籍まで貰い、地方官の省試を受けて役人になってしまった。
そして数年ーー中央省試を受ける頃には紫山でも有名な数学者として教えを請われる立場にまで登り詰め、「先生」などと呼ばれ慕われていたのである。
そこまで来ると無視する事も出来ず、名前を聞くと「山之威成(やまのいなり)」と言うのだと言った。
西方人がそんな名前なもんかと突っ込むと男は大笑いしながら、これが今の名前なのだから仕方ないと言った。
変な奴だと思った。
それからいつの間にか話をする様になり、土下座してお願いされたので仕方なく近くに住む陰陽師を紹介してやった。
その後は陰陽師の弟子を気取り、鬼やら悪霊退治やらに首を突っ込み痛い目を見たソイツを何度となく助けてやったり、こちらが対応出来ずに困っていた橋の修理や川の増水を「えんちえんと」という威成特有の術で治めて工事したりと、まあ互いの利になる関係性を築いた。
先入観を捨てて腹を割って話してみると実に面白い男で、二人揃って馬鹿騒ぎをし、当時まだ健在だった婆様にドヤされたのも一度や二度ではない。
自分の諸国行脚にも同行し、いつしか親友と呼べる間柄になっていた。
しかしそれから数年すると威成は自国で何やら問題が起きたと言い、来た時と同じくあっさりと帰って行ってしまった。
忙しなく、フワフワとして根無し草の様な奴だと溜息を付いた穂浪。そんな彼女に彼は一枚の置き手紙と変な玉を残した。そこには
『もし何か困った事があったらこれで呼べるヨ!(1回こっきりだけどネ)』
アホくさ、と吐き捨てたが今となっては藁にも縋る思いだった。
下らない事で浪費していなくて良かったと思う。
穂浪は早速それを引きずりだし、威成に連絡を取った。返事は直ぐに来て、十数年ぶりに親友との再会を果たす事となった。
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