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久方振りに会うと威成は開口一番こう言った。
「え!?ほんとにホナミ君!?なんかめちゃめちゃゴツくなってない!?昔はもーちょいスレンダーな美人ーー」
「どやかましいね、このクソ野郎!話の腰を折るんじゃないよっ!!」
「お怒りガー……ごふぁっ!!?」
穂浪は拳で威成をぶん殴った。
吹き飛ばされた威成は壁に激突し、そのまま床に崩れ落ちる。
何とも無様だ。
ついでに最後の言葉は意味が分からなかった。
だが今はそれどころじゃない。
「威成、アンタを呼んだのは他でもない……実は、預かって欲しいもんがあるんだよ」
「預かって欲しいもの?いいヨー!」
「即答かこの野郎!!少しは頭使って考えなっ!!」
「いやいやちょっと待って!グーはダメ、グーは!!暴力反対ーーどごはっ!!?」
再び頬に拳がめり込んだ所で威成は撃沈した。
それをバシバシと引っぱたいて叩き起す。
「おら起きな!で、話を聞いとくれ!」
「アウチ!ほ、ホナミ君!飛ぶ飛ぶ!また意識飛んじゃうから!!」
引っぱたくのを止めると威成はフグの様に腫れ上がった頬を撫でつつ涙目で尋ねた。
「で、預かって欲しいものって何?」
「………あたいの、娘さ」
「あーそう。娘ネ!いいヨ、預かってあげ……って……え?娘って、娘?」
「そう」
「アレだよネ?あの、ほら、その、娘さん?」
「そう」
「…………」
「じゃ、頼んだよ」
「ちょ、ちょっと待ってぇええ!!!」
いきなり大音量で叫ばれ、穂浪は眉を顰めた。
「何だい!相も変わらず喧しいね!!」
「いや!だってほら、娘ってあの“娘”でしょ!?ムスメ、むすめ、ユア・ドーター!!?」
「だからそうだって言ってるじゃないか」
最後の「ゆわどうたあ」は良く分からなかったが。
穂浪は頷く。
「えーと、その、ちょっと待ってネ」
威成はやや訛りの強い言葉で穂浪の言葉を遮ると、額に手を当てて暫く考え込み、それから空色の双眸を彼女へと向けた。
「……何で、って聞いてもいい?」
その問いに穂浪は険しい表情を浮かべたが、手短かに理由を話した。
娘の身に危機が迫っている事。
この東方神州に居ては幸せにはなれない事。
「この子を祭祀にはしたくない。人並みの幸せって奴を、与えてやりたいんだよ」
このままここに居ては、娘は不幸になる。
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