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 毎週金曜日の午後2時30分から15分間。この時間帯だけ、そのさしたる特徴もないワイドショー番組の視聴率は跳ね上がると言われている。 「お待たせいたしました。国会レポートの時間です。話題のイケメン議員、城築峻介先生に、今日も国会議事堂から生中継で熱く政治を語っていただきましょう。今回はどんなお話を聞かせていただけるんでしょうか。城築さーん!!」  騒々しい女性アナの呼び声と共に、国会議事堂のエントランスに立つ峻介の姿がモニターに映し出されると、スタジオ内の客席が大きくざわめいた。  仕立ての良いスーツが似合う立ち姿。「政界のプリンス」の呼び名に相応しく、赤い絨毯の上に立つその姿には、どこかしら貴公子めいた空気が漂う。  スタジオからの声に応えてにこやかな笑顔を浮かべ、彼は話し始めた。よく通る柔らかい声が会場を魅了する。 「こんにちは、城築です。今日は先日開かれた税制改革委員会より、消費税増税に関する審議についてお話ししたいと思います」  映画俳優のようだと言われる端整なマスクがアップになると、再び客席がわいた。  女性週刊誌などで「峻さまスマイル」と騒がれる笑顔……涼やかな目元をほころばせ、形の良い唇の端を柔らかく引き上げた品の良い笑顔は、決して作られたものではなく、彼の育ちの良さが成せる技だ。  その育ちに相応しく、顔立ちは上品に整っているが、さっと刷毛で刷いたように上乗せされた男っぽい精悍さが、なんともいえない色気を醸し出している。 「消費税の増税といえば、我々庶民にとって一番見過ごせない事柄ですね」  彼に話しかけるアナウンサーの声も、心なしか一段と華やいだ響きを帯びる。 「ええ、それだけに大変な激論が交わされたようです。いかに予算を切り詰め、皆さんの負担を軽くするかはもちろんですが、今回重点的に話し合われたのは、そうしてお預かりすることになる大切な税金を、皆さんの生活を豊かにするために使うにはどうすればいいかということでした」  淀むことなく滑らかに、峻介は話し続けた。時折スタジオから割り込んでくるお笑い芸人の突っ込みに鮮やかに応酬し、自身もさりげなくユーモアを交えながら。  こうしたワイドショーの空気はとっくに心得ていた。自分がこの場においてどう振舞えば良いかということも。
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