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 その人気は、党の若返りを狙って彼と前後して議員となった多くの若手や二世たちの中でも群を抜いていたが、それも当然かも知れない。  若くして選挙に出馬できるバックボーンを持った者といえば、たいていは豊かな家庭で何不自由なく育てられたお坊ちゃまお嬢様だ。中には党のイメージアップどころか、非常識な言動で世間の眉をひそめさせる者も少なくはない。  しかし峻介だけは決してそんなボロは出さなかった。  庶民感覚を忘れない野党出身の父に厳しく躾けられてきたから、常識なら身についている。そして何より彼には、周囲や世間が自分に求めるもの、求めないものを敏感に察知する能力があった。その語る言葉、表情、行動全てが、若手議員としてこうあって欲しいと世間が求めるもので、そこから外れた振る舞いをすることは決してなかった。  そうして政界の若きプリンス、城築峻介は、あっという間に国進党の広告塔として、なくてはならない存在となったのだ。  周囲が期待する自分を演じることなど、幼い頃からそうやって生きてきた彼には、簡単なことだった。そう、周囲が期待する自分になるのではなく、ただ「演じる」だけならば。  だけどそれは、真実の姿ではない。本当の城築峻介は、誰も知らない、彼自身の胸の奥底だけにいる。その自分が、時おり彼の心の隙をついてささやきかけてくるのだ。  お前は今、いったい、何をやっているのだと……。  電動でゆっくりと上がる大きな門をくぐり抜け、車が家の敷地へと入って行く。  峻介は心の声を払いのけ、帰りを待っているであろう母に見せる笑顔を作るため、両の手のひらでぱちぱちと自分の頬を叩いた。
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