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 もうすでに赤ん坊ではないが、大志は、誰が見ても可愛いと思える子供だ。その言動も溌溂としていて、人の心をひきつける。彼に会えば父も、血の繋がりなどということは気にならなくなるのではないだろうか。  もし漣が、そのことを許してくれるのなら……。  それに……峻介は夢をふくらませることを、どうしてもやめられなくなる。  1ヶ月近く大志と一緒に暮らしてきて、いかに彼が利発な子供であるかを、峻介は思い知らされていた。  子供ながら自分の考えをしっかりと持ち、その考えに従って行動することを知っている。自分などよりもずっと、将来政治家となるに相応しい器を持っているのではないかと思わずにいられないことが、実は度々あったのだ。  もし、あの子供がいつか、自ら政治家を志すことを望んでくれたなら……。  父将孝が作り上げてきた土壌を引き継ぐに、これほど相応しい人材はあるまい。  つい、そんなことまで考えてしまい。峻介は、あわてて首を横に振った。  大志はまだ、6歳になったばかりの子供なのだ。その未来は無限に広がっている。  幼くして自分の未来を決められることの苛酷さを、自分は身をもって理解しているはずなのに……。これでは瑞田の二の舞だ。  しかし、瑞田も、父も、母も、幼い頃の自分に何かを感じ、期待をかけてくれていたのだろう。峻介は今、そのことをもまた身をもって実感した。  親とはそういうものなのだと。  だが、その期待は時として苛酷な呪縛となる。そのことだけは自覚しておかねばならないと、峻介は自分を戒めた。
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