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 4月、大志は小学生になった。  保育園とは違い、気心の知れた環境ではない。入学式に出るのはさすがに遠慮することにした。漣は少し残念そうだったが、相変わらず溜息の出るような格好の良いスーツ姿で、大志と2人、出かけて行った。  紺のブレザーの制服に黄帽をかぶった大志も見違えるように大人びて見え、もうすっかり親の気持になっている峻介の胸を熱くさせた。  入学式の前日、2人は、自分たちのことを大志に話した。  とはいっても、6歳の子供を相手に生々しい話はできない。とにかく自分たちは誰よりもお互いを大切に思い合っていること、これからは大志にも、3人で「家族」だと思って欲しいということを、なるだけ解り易く説明した。もっとも、この聡い子供にとっては、それらのことは既に周知の事実であったようで、何を今さらという顔をされてしまったのは面映ゆいことであったが。  そして話すのは辛いことだったが、自分たちのそうした関係を良くは思わない者も世の中にはいるのだということも、話さざるを得なかった。  峻介が既に全てを世に明かしてしまっていたことで、口止めをせずにすんだのはせめてもの救いだったが、だからこそ、大志が新しい環境で不愉快な目に遭う可能性がある。  もし、そんなことがあったら必ず自分たちに話して欲しいと、そのことだけは2人して真摯に伝えた。絶対に、自分たちがどうにかするからと。 「ちゃんと話してくれよ、大志。そんな奴らは父ちゃんが、ぶっ飛ばしてやるから」 「れ、漣……、ぶっ飛ばすのは、いけない」  漣の「ぶっ飛ばす」は、シャレにはならない。峻介は慌てて諫める。漣は「しょうがねえな」と笑った。 「城築さんがそう言うんなら、ちょっとびびらせるぐらいにしとこうか」  いや、「びびらせる」も、漣の場合相当なものであろうが……。  まあ、そのあたりのことは漣に任せておくとして、自分は大志のために何ができるだろうかと峻介は考え続けている。
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