29

7/11
前へ
/425ページ
次へ
 無粋な高層マンションなどではなく、自然と共存するような形で、魅力的な低層の共同住宅群を作ることはできないものだろうか。  元からある集落とゆるやかに繋がり、新たなコミュニティが生まれる。そして人が増え、子供が増え、ゆくゆくは保育園や学校、高齢者向けの施設などが建ち、あらゆる世代や立場の人間が共存する暮らしやすい街となる……。  元々この辺りは、豊かな自然が逆に災いして戦後の開発からは取り残され、人口も減って寂れつつあるという負の一面もあった。そんな街に、最も良い形で活力を取り戻させることができれば、ずっと国進党を支持し続けてくれた人々への貢献にもなるのではないか。  夢物語になるかもしれないが……と前置きをして、峻介はこの思いつきを杉村に話してみた。すると彼は目を輝かせて賛成してくれ、さっそく国進党の支援者たちを中心に準備のための会を作って、自ら不動産会社と交渉を始めた。やはり、誰もがこの地域の衰退をどうにかしたいと考えていたのだ。  峻介もまた、市長を通じて不動産会社の重役たちにこの件を打診してみた。すると思いがけず賛同者が得られ、夢物語は現実化に向けて動き出すことになったのだった。  以来、発案者として、議員として、峻介は労を惜しまずこの計画に協力し続けてきた。だから、議員でなくなっても、この件にだけは関わり続けたいと思ったのだ。  何の力もない今の自分だが、ボランティアとして協力させてはもらえないかと電話で申し出た峻介を、杉村は手放しで歓迎してくれた。そうして、今日の会合に参加することになったのだった。  峻介が議員を辞めた経緯は誰もが知っているはずだが、集まった者たちは皆、一切のわだかまりなく彼を受け入れてくれた。それどころか以前と同じように頼りにされ、次々に質問を受け、思わず胸が熱くなる。  それだけではなかった。  会合を終え、別れを告げようとする峻介に、杉村はこう言ったのだ。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2740人が本棚に入れています
本棚に追加