29

8/11
前へ
/425ページ
次へ
「城築さん、あなたはもう一度、この選挙区から議員を目指して立候補する気はありませんか?」  一瞬、何を言われたのか飲み込めず、峻介は言葉をなくして杉村を見つめた。  彼は力強く笑って繰り返す。 「無所属でも構いません。俺たちはもう一度、あなたにこの地区の代表として議員になってもらいたいんです。あなたさえその気なら、後援会を作って全力で応援させていただきますよ」  杉村の後ろに並んだ人々も、微塵の迷いもない笑顔を見せてうなずいている。峻介は信じられない思いで、ただ呆然と彼らを見つめるしかなかった。  世間を騒がせたあげく議員の職を解かれ、国進党という大きな後ろ盾を失った自分を、この人たちは今もなお応援してくれると言うのか。 「しかし……」  あまりにも思いがけないその申し出をどう受け止めて良いのかわからず、峻介は混乱しながら言葉を探した。 「それでは国進党と真っ向から対立することになってしまう。あなた方にとっては、あまりにも不利です」  保守的な土地柄のこの選挙区では、昔から国進党が圧倒的に強い。今後、選挙があったとして、無所属となった峻介が対立候補として再び名乗りを上げることは無謀であるし、支援者たちにとっては危険ですらある。  元々彼らは代々続く国進党の支援者たちだった。つまりは、峻介が大叔父から引き継いだ「地盤」であって、本来なら次の国進党の候補者に引き渡すのが筋というものだ。彼らが峻介を応援し続けることは、国進党にとっては裏切り行為に他ならない。  自分が選挙に敗れるのは当然の結果で致し方のないこととしても、残された彼らまでが不利な扱いを受け続けることは目に見えている。  感激と共にその申し出を受け入れたい気持を必死で抑えつつ、峻介はそうしたことを彼らに説明した。しかし杉村は何もかも心得ているといった風に笑って言った。 「新旧交代ですよ。城築さん」
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2740人が本棚に入れています
本棚に追加