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 ゲイという理解し難い存在を、人はそう簡単に受け入れることができるものなのだろうか。  その事実を必死に隠し続けてきた峻介にとって、彼らの寛容さは、有難いと同時に不思議にも思える。 「それはきっと、城築さんが城築さんだからだよ。ゲイだろうとなんだろうと、とにかくこの人について行きたいって思わせるぐらいの繋がりが、あんたとその人たちの間には出来てたんじゃねーかな。俺にしてみたら、ちょっと妬けるぐらいのね」  ある時、ふと疑問を漏らした峻介に、漣はそう答えた。  手放しの褒め言葉と言える。しかし峻介はといえば、一番最後の言葉に反応してしまうのだから、どうしようもない。  いつもお行儀の良いこの恋人から、「妬ける」なんて言葉を聞くのは、実に初めてのことだったのだ。 「妬ける……というのは、本当か? 漣」  もう他のことはどうでもよくなってしまって、峻介は漣の瞳をのぞきこんでたずねた。とたん、漣は真っ赤になる。 「あ……当たり前だろ? 俺はいつも妬いてるよ。今のあんたは本当にいろんな人を惹き付けるもんだから……って、俺、何言ってんだろ」  耳まで赤くなって口ごもる漣を、峻介は思わず抱きしめた。 「な、何だよ。人がせっかく真剣に話してんのに……」  漣は困ったように呟いたが、額に、唇に、頬に、次々と降らせられるキスの雨に、観念して口を閉じた。その耳元に、峻介はささやく。 「困ったな。そんなに可愛いことを言われると、もっと君を妬かせたくなる」 「やめてくれよ!! これ以上妬かせられたら俺、死ぬかも」  真っ赤な顔で必死にそんなことを言う恋人が可愛くてたまらず、峻介は漣をソファに押し倒した。スイミングスクールに行った大志が帰ってくるまで、まだ時間はある。  止まらなくなったキスの嵐に息を乱しながら漣が呟いた言葉は、どうやら峻介の耳には届いていないようだったが……。 「俺はほんと、妬いてばかりなんだよ。自分が嫌になっちまうぐらいに……」
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