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「そうだ」と父は明快に答える。 「長原と蒲田先生も共にだ。それから、私たちの意志に賛同する者たちもついてきてくれる」  そういうことかと峻介は合点がいく思いがする。しかしその後将孝が淡々と語った話は、彼の想像の上を行く内容であった。  将孝たちが辞してほどなく、新内閣が発足された。  長老たちによって担ぎ出されたのは、40代半ばの新総理だった。若く見栄えも良い総理大臣は、初めのうちこそ国民の評判も悪くなく、滑り出しは上々だったが、早々に暗雲が立ち込めた。総理の不倫が発覚したのである。  銀座のホステスを囲っているという、古色蒼然たる話であった。遥か昔の権力者なら目を瞑ってもらえたことかもしれないが、今は平成の世である。誰よりも国民の信頼を得なければならない一国の長が、妻や子を平気で裏切るなど、許されることではない。  当然、国会は紛糾した。よせばよいのに、男の甲斐性だの勲章だのという、擁護のつもりのお偉方の失言が火に油を注いだ。議会は混乱を極め、今や完全に審議は機能しなくなっている。  内閣交代以降、弱体化した感のある与党を叩き潰すチャンスとばかりに野党は執拗にこの件を責め続け、状況は長引きそうだった。  将孝たちは、とうとう痺れを切らしたのだ。  不倫はもちろん問題だが、根本の問題はそこではない。こうしたことをさほどの罪悪とも思っていない時代感覚の無さ、国会が機能しなくなるほどの大問題をあっさりと嗅ぎつけられてしまう脇の甘さ、山積みになった火急の問題を放り出して、ただ自党の保身と弁明に終始する国会での情けない姿、もう、この党には愛想が尽きた。  どうにかこの問題を鎮静させ、国会を本来の場所に戻そうと陰ながら奔走していた彼らだったが、もはや、そんなことではどうにもならないことに気付いたのである。 「私と長原は、蒲田先生と共に党を出て、新党を結成する。そして、早急に内閣不信任案を出すつもりだ」  当然、流れは衆議院解散、総選挙となる。  その選挙で必ずや国民の信を得、他の野党と連立を組んで政権を取る……将孝はそう、淡々と語った。  あまりに大きな話に、峻介は身体が震え出してくる。
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