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 政治にそう詳しくはない漣も、さすがに顔色をなくしていた。 「俺、本当に聞いてもよかったんですか? この話……」  将孝に問うその声も、わずかばかり震えている。 「君にも聞いて欲しかった。峻介に関わることだからな」  父はそう言って、「え?」と言葉を失くす峻介を、あの鋭い瞳で、射るように見つめた。 「峻介、私たちが新党を結成した暁には、党員になってもらえないか? そして次の選挙では、党の公認で、東京26区から再び立候補してほしい」  峻介は目を瞠った。しばらくは呆然として、言葉も出なかった。 「城築さん」  力強い声で呼ばれ、我に返る。自分を見つめる漣の瞳が輝いていた。  その輝きを見て、ようやく、心の底から喜びが湧いてくる。 「夢のようなお話です。しかし……」  それでも解せず、峻介は尋ねた。 「本当にいいんでしょうか。僕は、騒ぎを起こして党を出された身ですが……」  カミングアウトは罪ではないが、あまりに人騒がせなやり方であった。そのせいで父たちには迷惑をかけたという自覚もある。  そんな自分を何故、彼らは再びすくい上げようとしてくれるのか。 「私たちは結局、お前を守ることができなかった」  わずかに沈痛な表情で、父は答えた。 「なぜ守れなかったかというと、私たち自身の中にも偏見があったからだ。ゲイだと公言した男と、これまでと変わらず共に仕事を続けてゆけるだろうかという思いが、消し難くあった。しかし、お前がいなくなって思い知らされたんだ。意味のない偏見のために、優秀な人材をみすみす失うことの愚かさをね」  そして、信じられないことに、父はこう明言してくれたのだ。 「今の国進党の衰退は、お前の不在も一因だと私は思っている。お前は党のイメージを担ってくれていただけでなく、リーダーとして見事に若手を牽引してくれていた。新党にはお前の力が必要なんだ。どうか私たちを許し、再び共に戦ってくれないか」  それは、ただひたすら父だけを目標としてきた峻介にとって、これ以上ないほどの言葉だった。
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