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 淡々と話す漣の言葉に、峻介は、気負った心がすっと解けてゆくのを感じていた。  この青年は本当に自由で、いつも自分の足でしっかりと立っている。周りがどんなに変わろうとも、絶対に揺らがない。その一方で、恋人であり家族でもある自分のことを、こんなにも深く信頼してくれているのだ。  大丈夫だ、と、理屈抜きに思えた。  「それに……」と、漣は苦笑して続ける。 「大志も、年々手がかからなくなってきてるしね。これからのあいつには、ただ単に世話を焼くなんてことよりも、もっと大事なことが必要なんじゃないかって思ってる」 「大事なこと……?」  尋ね返す峻介にうなずき、漣は思いがけぬことを話し出した。 「城築さん、俺は、本当に俺たちのことをみんなに話したいって思ってたけど、それでいろんなものを失くさなきゃならないってことも、正直、覚悟してた。大志にもちょっと辛い思いさせなきゃなんないかなって。まあ、そこは俺がなんとか全力で守るつもりだったけどもさ」  峻介は虚を突かれ、ただ、恋人の言葉に耳を傾ける。 「でも、そうはならなかった。俺たちのことわかってくれる人がたくさんいて、俺も大志も前と同じように静かに暮らせてる。それって、城築さんのおかげなんだ。城築さんが、俺たちの周りを変えてくれたからなんだよ」 「そ、そんなことは当たり前だろう。僕と一緒にいるからといって、君たちが辛い思いをするのは、僕自身が耐えられない。それだけのことだ」  峻介はあわてて言葉を返す。本当に、ただその一心だったのだ。しかし漣は、また違う感慨を覚えているようだった。 「でも、誰にでもできるってことじゃない」  漣は静かに言葉を返す。そして、 「あんたには、いろんなことを変える力があるんだ」  そう、強く言葉を繋いだ。
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