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「その力を使わなきゃだめだ、城築さん。あんたは政治家でいるべきなんだよ。そうして、政治に打ち込んで、世の中を変えていく姿を大志に見せてやってほしい。それが今、城築さんがあいつにしてやれる一番大事なことだと思うんだ」 「変えていく姿を、大志に……?」  それは、あまりに大きな言葉だった。峻介はただ目を瞠り、繰り返すしかない。漣は力強い笑みを見せ、続けた。 「大丈夫、できるよ、城築さんなら。あんたには、その力がある」  不意に、峻介の目の前に、夢のように美しい夕焼けの空が広がった。遠く小さく、眼下に広がる薄青い街並、その向こうでオレンジ色に光る海と、少しずつ沈んでゆく夕陽。  いつか、漣が見せてくれた光景だ。  それらの光景は一瞬にして消えたが、目の前にある恋人の笑顔は変わらなかった。小さく目を瞬かせ、そのことを認めた時、峻介の迷いは消え、気持は固まった。 「君がくれた、力だ……」  峻介はそう言って、恋人の身体を抱きしめた。 「僕に力があるとすれば、それは、君がくれた力なんだ……」  抱きしめる腕に力を込めて、彼はそう繰り返す。   そうなのだ。漣に出会う前の自分は、ただ議員という立場を持て余すばかりの若造に過ぎなかった。 「君に出会って、僕は変われた。何かを変えるべきだ、変えられると本気で思うことができたんだ。本当に、感謝してる」  峻介は迷うことなく、言葉を繋げた。 「この力を、大志にも繋げたい。僕は、議員の仕事に打ち込もうと思う。君が、そのことを大切な仕事だと思ってくれるのなら……」 「大切な、仕事だよ」  漣は揺るぎない瞳で峻介を見上げ、そう答えてくれた。 「大志に、あんたの力を繋いでやって欲しい。あいつがどんな人生を選んだとしても、それがあいつ自身の力になれるようにね……」  峻介は力強くうなずき、漣に口づけた。
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