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 柔らかい髪をかき乱し、何度もキスを落とす。そうしているうちに、胸の中を痛いほどに満たしている思いが、思わず、言葉になって零れる。  「漣……愛してる――」  漣はぱっと顔を上げて峻介を見上げた。そして、嬉しそうに表情を綻ばせて、言った。 「うれしいな、また、聞けた……」 「え……?」と、峻介は思わず固まってしまう。 「また……と言ったか? 漣――」  今まで彼がこの言葉を口にしたのは、ただ一度きりしかない。溢れ出す思いのまま、眠り続けていた漣に口づけてしまった、あの時……。 「もしかして……聞こえていたのか」  恐る恐る尋ねると、漣も少しばかりうろたえた顔をした。 「あ……ああ、聞こえてた。…ってか、やっぱ、そうだったんだ」  独り言のように呟く漣に、聞かねばよいのに、峻介はさらに確かめずにはいられなくなる。 「……ということは、その後、僕が、君にしたこと…も?」  漣は顔を赤くして、ためらいがちにうなずいた。 「いや、夢だったのかほんとなのか、ずっと、わかんないままだったんだけど……」 「そうか……」  峻介は思わず絶句する。あの時はとにかく無我夢中だったが、気づかれていたとなると、やはり、恥ずかしい。いや…もう、とてつもなく恥ずかしい。 「き、城築さん、大丈夫か。めちゃくちゃ顔赤いけど」 「いや、それは、君もだが……」  しどろもどろに答え、恋人の目を見られぬまま、峻介は詫びた。 「…すまなかった。意識のない君に、無体なことをして……」 「な、なに言ってんだよ」  漣は驚いた顔で峻介を見上げ、答える。 「きっと、あのおかげで俺は帰って来られたんだ。ほんと、感謝してる」
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