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「漣、そう言ってくれるのは嬉しいが、それはそれで、やはり恥ずかしい」  赤面したままそう言葉を返すと、漣も「そうだな」と苦笑した。 「俺もなんか、恥ずかしいよ。キスされて目が覚めるなんて、どこのお姫様だよ、まったく……」  そうしてふたりは見つめ合い、どちらからともなく、ふっと笑った。  峻介は黙って手を伸ばし、再び恋人を抱きしめる。  とにかく、こうやって今も、このあたたかい身体を抱けるのだ。それに勝る幸せがあるだろうか。 「城築さん……」  峻介の胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で漣は彼を呼んだ。 「もう1回、言ってくれないかな」  ためらいがちな言葉と共に見上げられ、くらりとする。もちろん、拒む理由などあろうはずもない。  やはり少しばかり照れはしたが、峻介は恋人の瞳を真っ直ぐに見つめ、言った。 「漣……愛してる」  漣は眩しそうに峻介を見上げて、こう、言葉を返してきた。 「俺も、愛してる。めちゃくちゃ愛してるよ。城築さん……」  さらりと倍返しされ、ようやく静まりかけていた頭の中が、再びボッと熱くなる。くらくらする頭を恋人の肩に乗せ、「君は、ずるい……」と、峻介は呟いた。
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