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 その後、将孝が語ったシナリオ通りに政界は動くことになる。  7月、大勢の議員を引き連れて国進党を離れた蒲田元総理、長原、そして将孝の3人は、もう待っていられないとばかりに驚くべき早さで新党を結成した。  党名は「真実進歩党」。少しばかり青臭い名前だがと将孝は苦笑したが、長原が考えたというその名前には、彼らの率直な思いが表れていた。  自分たちこそが、真に進歩的な政党だというわけである。  混迷を極める政界に突如現れた新党は、またたくまに国民の人気を集めた。周到な根回しの成果もあって、野党との足並みもスムーズに揃った。  与党の抵抗もいろいろあったが、それは最後の足掻きというものである。満を持して内閣不信任案が提出され、賛成多数で採決。衆議院解散、総選挙の運びとなった。  本人たちが拍子抜けするほどにあっけない流れであったが、本当の戦いはここからである。  その間、議員ではないながらも党員として真進党に関わっていた峻介は、党の公認を得て立候補することになった。もちろん、かつての選挙区、東京26区からである。  事務所は既にある、ボランティアとして彼を支え続けてくれた秘書たちもいる。杉村たちも後援会を創設して全力で彼を支持する態勢を整えてくれている。  お膳立ては揃っているといえた。しかしそう事は簡単ではないことも、峻介はわかっていた。  何しろ、代々続く古箭家の地盤に切り込んでゆくわけである。しかも、自身がこの家に連なる一員でありながらだ。  現職の伯父は古箭家の名誉にかけて容赦なく戦いを挑んで来るであろうし、国進党は与党のプライドをもって、手段を選ばず峻介を追い落とそうとするだろう。  しかし峻介は一歩も引かない覚悟だった。  今度こそは、全力で戦う。自らの力で戦って議席を得る。そのチャンスが、ようやく回ってきたのだから。  とはいえ、選挙の準備のために都心と選挙区を忙しく行き来する日々が始まったとたん、漣と大志が恋しくてしょうがなくなってしまう情けない彼であったが。
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