エピローグ

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エピローグ

 選挙の公示日はあっという間にやってきた。  今日から選挙運動中の12日間、峻介は葉谷市の事務所に泊まり込み、戦いの日々を過ごすことになる。なるだけ漣のいるこの部屋に戻りたかったが、秘書やたくさんの支持者が共に戦ってくれる以上、そう我儘も許されない。  いっそ漣を連れて行きたかったが、彼にも仕事があり、大志もいる。  結局、漣自身にも「休みの日は応援に行くから、城築さんは選挙に専念しろ」と諭され、離ればなれで過ごす覚悟を決めた。まったく、情けないことであった。  よく晴れた朝だった。小学校に行く大志を見送った後、身支度を整え、愛しい恋人に暫しの暇を告げる。  出勤を遅らせて峻介の出発に立ち会ってくれた漣は、出陣式のために久しぶりに三つ揃いのスーツを着た峻介を見て、眩し気に目を細め、言った。 「やっぱ、めちゃくちゃ恰好いいな。築城さんは」  そんな顔でそんなことを言われると、よけいに離れがたい思いがつのる。  必要以上に時間をかけて革靴の紐を結びながら、今ごろ事務所で懸命に準備を進めてくれているであろう秘書たちや支持者たちの顔を思い浮かべ、峻介はどうにか平常心を取り戻そうとした。  しかし、申し訳ないことだが、今は、すぐ近くにいる恋人の笑顔に勝る破壊力を持つものは、他にないのだ。
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