エピローグ

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「漣、僕に、力を分けてくれないか?」  ようやく靴を履き終えた後、立ち上がって漣を振り返り、峻介は真剣な顔で言った。漣は少しだけ訝しそうに首をかしげたが、すぐにわかってくれたようだった。 「いくらでもやるよ。なんだったら、俺のチカラを全部」 「い…いや、全部はいい。君も仕事があるんだ。少しは残して置いてくれ」  あわてて言葉を返すと、その言い方が可笑しかったのか、漣は思わず、といった風に吹き出した。 「まったく……城築さんらしいな」  そう言って漣は笑いながら峻介の首に腕を回し、そっと口づけてくれた。  そのまますぐに離れようをする唇を峻介は思わず引き止め、柔らかい髪に指を差し入れて、より深いキスをする。 「ん……っ、城築さん――」  それは、「行ってきます」のキスにしては、いささか深すぎるもので……。 「な……んだよ。結局、全部持ってかれちゃったじゃないか」  どうにか唇を離し、わずかに息を切らしながら、漣が苦笑する。 「す、すまない。少し返そう……」  半ば本気でそう言って、再び唇を近づけようとする峻介を、漣はあわてた顔で押しとどめた。 「きりがねえよ。早く行かなきゃ。みんなが、あんたを待ってる」  漣の言葉に少しばかり平常心を取り戻し、思わず苦笑が漏れた。  まったく……人生をかけた大きな戦いの前だというのに、どうにも恰好がつかない。この愛しい恋人には、いつまでたっても調子を狂わされる。
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