アフターストーリー1

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 柔らかく整えられた黒髪、品良く端整な顔立ち。仕立ての良いスーツを完璧に着こなし、「峻さまスマイル」と呼ばれる笑みを浮かべて立つその姿は、「王子様」そのもののイメージだ。  しかし、どうしても何かを伝えたいという思いにかられたとき、その瞳は驚くほどの真剣味と鋭さをおびる。不意にあらわれるその男っぽさに、漣は大げさでなく、軽く心臓を撃ち抜かれるような心地になってしまう。  しかし、そう感じるのはどうやら漣だけではないらしい。  「政界のプリンス」と呼ばれて久しい峻介だが、様々な運命の変転を経た今、その容貌には鋭さや精悍さや男らしさが加わり、ゲイを公言しているにも関わらず、女性たちの人気は急上昇中らしいのだ。そうした情報に詳しい漣の母が話していた。  しかも彼の魅力はその外見だけではない。どんな仕事にも全力で取り組む真摯な姿勢には定評があり、『キッズ・ニュース』の成功も、彼の言葉を尽くしたわかりやすい司会なくしてはありえなかったと言われている。  その人気は子供たちのみならず、その親たちにも及び、本来政治への関心が薄い彼らの動きが、次に選挙が行われる時には大きく影響するかもしれないと噂されているほどらしい。  漣は時折、しみじみと思うのだ。もしかしたら…いや、もしかしなくても俺、すごい男を恋人にしてんじゃねーか?  城築峻介(きづき しゅんすけ)、29歳。完璧な容姿と柔らかな笑顔で「峻さま」と騒がれ、あちこちのテレビからひっぱりだこの人気政治ジャーナリスト……。  だった。この9月までは……。  しかし峻介は方々に頭を下げて、10月以降のテレビの仕事を大幅に減らした。いま続けているのは、この『キッズ・ニュース』と、彼のカミングアウトのきっかけとなった大人向けのニュース番組へのレギュラー出演の2本だけだ。  ジャーナリストとしての仕事とは別に、もうひとつ仕事ができたから……というより、本来の職業を取り戻したからである。  今年の夏、日本の政界には、大きな風が吹いた……らしい。  そしてその時、確実に風のど真ん中にいたのが、この漣の恋人だった。
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