アフターストーリー2

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「無理に政治に関わろうとしなくていい。君までが政治に染まってしまったら、僕はきっと、地に足がつかなくなってしまうだろうから」  前日、迷う漣に、峻介は電話でそう言ってくれた。その言葉は、政治家としての峻介をもっと支えねばならないのではないかと悩む漣の心を、すっと軽くした。  今の自分でいいのだ。今のままで、ちゃんと自分は恋人のことを支えていられる。そう信じることができたから。  初めてこの恋人と言葉を交わした時のことを、漣は思い出した。あの時、ほとんど初対面だった漣に、峻介は「君の話を聞かせてほしい」と、真剣な瞳で切り出したのだった。 ――現場の声というものを、僕はまったく聞くことができない。役人たちは、都合の悪いことは隠そうとするし、同業者以外の知り合いはほとんどいない。君のように、懸命に自分の足で歩いている人と出会う機会がないんだ。ひとりの生活人として、子育てをする親として、君の暮らし振りや、日々感じていることを話してもらえると有難いんだが……。  漣は、わけがわからず戸惑いながらも、その真摯な言葉の響きに心を動かされ、そして何より彼自身のたたずまいに心ひかれるものを感じて、その願いを聞き入れたのだ。それがすべての始まりだった。  あれから幾ばくかの時が過ぎ、恋人として一緒に暮らすようになった今も、きっと、この人が自分に求めるものは変わらないのだ。自分のすべきことは、政治家のパートナーとして深く政治に関わり、峻介を支えることではない。  ひとりの生活者として自分の仕事に向かい、自分の人生を生きること。そんな自分がそばにいるからこそ、恋人は政治に埋没することなく生活者としての視点を保っていられるのだ。このままでいいのだと思えた。  結局、漣は自宅で恋人の勝利を祈ることに決めたのだった。そしてその日は、朝一番で大志を連れて投票所に出かけた。天宮漣、23歳にして人生初の投票だった。
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