アフターストーリー2

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 峻介は多くを語ろうとしなかったが、彼のその「カミングアウト」が、その時生死の境にあった自分を気がかりに思うあまりの出来事であったことは、漣にもわかっていた。  自分がいなければ、彼は今も議員でいることができたのではないか?  自分が彼を好きにさえならなければ、彼は世のためになる様々なことを、今も成し遂げることができていたのではないか?  だとすれば自分は、自分の個人的な感情のために、日本の未来に何かを成すはずだった優秀な政治家を葬り去ってしまったことになる。  心のどこかで、そう思わずにはいられなかった。  幸せな日々の中、決して口に出せなかったその事実は、思っていた以上に自分の心を重く締め付けていたのだ。  どうにも止まらない涙を持て余しながら、漣は今、初めてそのことに気づいていた。  本当によかった……と思う。大切な恋人が、議員という大切な仕事を取り戻すことができてよかった。社会のために様々なことを成せる優秀な政治家が、このまま消えてしまうようなことにならなくて、本当によかった。  そうでなければ彼は、心のどこかで一生、悔やみ続けていたに違いない。  この時のことは絶対に誰にも話すなと、漣は大志に厳命してある。だから、彼がここまで大泣きしたことを、峻介は知らない(はずだ)。  自分が泣いたなんてこと、これ以上恋人に知られるわけにはいかない。ただでさえ彼にはこれまで、自分らしからぬ格好悪いところをあれこれと見せてしまっているのだ。  だからもういいじゃないかとは、まだまだ思えない漣なのだった。
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